Big4税理士法人は「卒業」という文化があります。ずっと在籍してパートナーを目指す人もいますが、多くの人が5〜10年で退職し、次のキャリアに進みます。
筆者はコンサルティングファームに在籍していた時、Big4卒業組と何人も一緒に仕事をしてきました。彼らの話を聞き、実際に同じプロジェクトで働いた経験から、Big4を辞めた後のリアルなキャリアパスをお伝えします。
Big4の「卒業」は前向きなキャリアチェンジ
まず理解しておきたいのは、Big4を辞めることは「脱落」ではなく「卒業」だということです。Big4では入社時から「ここは一生いる場所ではない」という認識を持っている人が多く、5〜8年で次のステップに進むのがむしろ標準的なキャリアプランです。
パートナーまで昇進するのはごく一部で、多くの人はマネージャー〜シニアマネージャーの段階で「次のキャリア」を考え始めます。これは決してネガティブなことではなく、Big4で得た専門性を活かしてキャリアの幅を広げるというポジティブな選択です。
Big4卒業後の5つの進路パターン
パターン1:コンサルティングファーム(年収700〜1,200万円)
筆者が最もよく見てきたパターンです。Big4の税務知識を活かしてFAS(Financial Advisory Services)やM&Aアドバイザリーに進む人が多く、年収は横ばい〜150万円程度のアップが一般的です。
筆者自身も準大手税理士法人からコンサルに転職しましたが、Big4から来た同僚たちは「税務DDだけでなくディール全体に関わりたかった」「M&Aの一部分ではなく全体像を見たかった」と口を揃えていました。この気持ちは、筆者自身が税理士法人で税務DDを経験しながら「M&A全般をやりたい」と思うようになった感覚と全く同じです。
コンサルでは税務の知識がそのまま武器になります。例えばM&Aのストラクチャリングでは税務上の影響を即座に判断できることが大きなアドバンテージで、Big4出身者はこの点で圧倒的な強みを持っていました。
パターン2:事業会社の税務・経理部門(年収600〜900万円)
上場企業や大企業の税務ポジションに転職するパターンです。ワークライフバランスを重視して選ぶ人が多いです。
筆者は現在上場企業にいますが、正直に言うと「毎回プロフェッショナルの顔をしなくてよい」というのは大きな精神的メリットです。Big4やコンサルでは常にクライアントの前で専門家としての自分を演じ続ける必要がありますが、事業会社では社内の一員として肩の力を抜いて仕事ができます。
年収はBig4のシニアマネージャー以上からだと下がるケースが多いですが、マネージャークラスからの転職であれば横ばい〜微増も十分あり得ます。残業時間は大幅に減るので、時給換算では上がるケースがほとんどです。
パターン3:他のBig4・準大手法人(年収600〜1,200万円)
意外と多いのが、Big4同士の転職です。「組織の雰囲気が合わなかった」「チームを変えたかった」「国際税務から組織再編に専門を変えたかった」など理由は様々ですが、Big4間の人材の流動性は実はかなり高いです。
この場合、年収は同水準かやや上がるのが一般的です。元の法人でのポジションがそのままスライドするケースが多く、転職というよりは「異動」に近い感覚です。
パターン4:独立開業(年収は完全に実力次第)
Big4で5年以上の経験を積んだ後、独立する人も一定数います。ただし、Big4の仕事はチームで大型案件を扱うことが多いため、独立後に個人の顧問先を一から開拓するのに苦労する人も少なくありません。
独立に成功しているBig4出身者を見ると、在籍中から個人的な人脈を構築し、Big4では扱えない中小企業の案件を紹介で受ける形で基盤を築いていることが多いです。
パターン5:ベンチャー・スタートアップのCFO(年収600〜1,500万円)
近年増えているのがこのパターンです。IPOを目指すベンチャー企業がCFOや管理部門の責任者を募集する際、Big4出身の税理士は非常に評価が高いです。
上場準備における内部統制の構築、税務リスクの管理、監査法人との折衝など、Big4での経験がダイレクトに活きるポジションです。ストックオプションが付与されるケースもあり、上場が成功すれば大きなリターンが得られる可能性があります。
退職のタイミングと年収変化
退職時のポジション | Big4年収 | 転職後の年収目安 |
|---|---|---|
シニアスタッフ(3〜5年) | 650〜800万円 | 事業会社: 600〜700万円 / コンサル: 700〜900万円 |
マネージャー(6〜9年) | 900〜1,100万円 | 事業会社: 700〜900万円 / コンサル: 900〜1,200万円 |
シニアマネージャー(10年〜) | 1,100〜1,400万円 | 事業会社: 800〜1,000万円 / コンサル: 1,100〜1,500万円 |
一般的に、マネージャーの段階が最もコストパフォーマンスの良い転職タイミングと言われます。十分な専門性が身についており、転職市場での評価も高く、年収を維持または上げやすい時期です。
Big4卒業で後悔するケース
ほとんどの人はBig4の卒業を前向きに捉えていますが、後悔するケースもあります。
事業会社に移って「物足りない」と感じるケース
Big4のスピード感や知的な刺激に慣れた人が事業会社に移ると、「仕事のペースが遅い」「専門性が活かしきれない」と感じることがあります。筆者の周囲でも、事業会社に転職して1〜2年で「やっぱりプロフェッショナルファームに戻りたい」と言い出す人がいました。
ただし筆者自身はコンサルから事業会社に移って「当事者としてM&Aに関われる」という別の面白さを見つけました。アドバイザー側ではなく、自分たちの会社として意思決定に関わるというのは、アドバイザリーにはない醍醐味です。
独立が思うようにいかないケース
前述の通り、Big4の仕事は大型のチーム案件が中心のため、独立後に個人顧客の開拓で苦戦する人がいます。独立を考えている人は、在籍中から個人の案件を受ける経験を積んでおくことを強くおすすめします。
筆者の経験から伝えたいこと
筆者は準大手税理士法人→コンサルティングファーム→上場企業というキャリアを歩んできましたが、コンサル時代にBig4卒業組と一緒に働いて最も印象的だったのは、「全員が明確な目的意識を持って辞めていた」ということです。
「なんとなく辛いから辞める」のではなく、「この経験を次にどう活かすか」を考えた上で退職している人ばかりでした。Big4での経験は間違いなく大きな財産ですが、それをどう活かすかは自分次第です。
今Big4で働いている方、これからBig4を目指す方、どちらにも言えることですが、「Big4の先に何があるか」を早い段階から意識しておくことが、後悔のないキャリアを築く鍵だと思います。
