「コンサルティングファームの税務って、税理士法人と何が違うの?」——これは筆者自身がかつて最も知りたかったことであり、実際に転職してみて初めて本当の違いが分かりました。
筆者は準大手税理士法人で税務DDを中心に経験を積んだ後、大手コンサルティングファームに転職しました。この記事は筆者の実体験に基づいています。税理士法人での税務DDとコンサルでのM&Aアドバイザリーの違い、そしてなぜ筆者がコンサルに移ったのかを率直にお話しします。
なぜ税理士法人からコンサルに移ったのか
筆者が準大手税理士法人で働いていた時、税務DDの仕事にはやりがいを感じていました。M&Aの対象会社に入り込んで税務リスクを洗い出す作業は、税理士としての専門性がダイレクトに活きる仕事です。
ただ、案件を重ねるうちに感じるようになったのが、「M&Aの一部分にしか関われない」というもどかしさでした。
税務DDはM&Aプロセスの一つのワークストリームに過ぎません。ディール全体のストラクチャリング、バリュエーション、交渉——これらは別のチームが担当しており、税務チームは「税務リスクを報告する」という限定的な役割でした。
税務DDを通じてM&Aの面白さを知れば知るほど、「ディール全体に関わりたい」「M&A全般をやりたい」という気持ちが強くなりました。これが筆者がコンサルティングファームに転職した最大の理由です。
税理士法人とコンサルの決定的な違い
関与するスコープの違い
項目 | 税理士法人(税務DD) | コンサルティングファーム |
|---|---|---|
関与範囲 | 税務リスクの洗い出し・報告 | ディール全体の設計・実行 |
クライアントとの関係 | 税務の専門家として限定的 | ディールチームの一員として全面的 |
意思決定への関与 | 税務面のアドバイス | ディール全体の意思決定に関与 |
求められるスキル | 税務の深い専門知識 | 税務+ファイナンス+ビジネス理解 |
働き方 | 案件ごとに集中期間あり | 常に複数案件が並走 |
実際にコンサルに移って最も大きな変化は、「クライアントとの距離感」でした。税理士法人では「税務面のご報告です」という形で成果物を渡す立場でしたが、コンサルではクライアントの経営陣と同じテーブルに座り、「このディールをどう進めるか」を一緒に議論する立場になります。
仕事内容の具体的な違い
税理士法人時代の筆者の仕事は、以下のようなものでした。
- 対象会社の過去の税務申告書のレビュー
- 税務リスクの洗い出し(未払税金、税務ポジションの妥当性)
- 税務DDレポートの作成
- 発見事項のクライアントへの報告
コンサルに移ってからは、これに加えて以下の業務が加わりました。
- M&Aのストラクチャー設計(税務面だけでなく法務・財務も含めた総合判断)
- バリュエーション(企業価値算定)
- 買収交渉のサポート
- PMI(買収後の統合計画)の策定
- クライアントの経営陣への戦略提言
特に印象的だったのは、税務の知識がディール全体の意思決定に直結する場面が多かったことです。「このストラクチャーだと繰越欠損金が使えなくなる」「適格組織再編の要件を満たすにはこの条件が必要」といった判断は、ディールの成否に関わる重大な論点であり、税務の専門家としての意見が強く求められました。
コンサルに移って得たもの・失ったもの
得たもの
- ビジネス全体を見る視点:税務だけでなく、ファイナンス・法務・事業戦略を横断的に理解できるようになった
- クライアントの経営陣との対話力:CFOやCEOと直接議論する経験を通じて、プレゼン力・説得力が格段に上がった
- 年収の上昇:準大手税理士法人時代の500万円台から700万円台に上がった
- キャリアの選択肢:コンサルの経験は事業会社への転職でも高く評価される
失ったもの
- 税務の深い専門性を磨く時間:ディール全体に関わる分、税務の最新動向をフォローする余裕は減った
- プライベートの時間:正直に言うと、コンサルの方が激務。ディールが走ると夜中まで作業するのは日常茶飯事
- 精神的な余裕:常にプロフェッショナルの顔をしていなければならないプレッシャーは、税理士法人時代より確実に大きかった
特にプレッシャーの面は大きかったです。クライアントの経営判断に影響を与える仕事をしている以上、「間違えました」は許されません。この緊張感は成長の原動力にもなりましたが、正直に言うと精神的にはきつい時期もありました。
税理士がコンサルで活きるスキル
税理士法人出身者がコンサルで重宝される理由は明確です。
1. 条文を読む力
税理士法人で叩き込まれる「条文に基づいて判断する」という習慣は、コンサルでも大きな武器になります。M&Aのストラクチャリングでは、税法だけでなく会社法や金融商品取引法の条文も読む必要がありますが、「条文を読んで解釈する」という基本動作が身についている人は適応が速いです。
2. 数字への感度
税務申告書を何百件も見てきた経験から、「この数字はおかしい」「ここに税務リスクがありそう」という感覚が自然と身につきます。この感度はデューデリジェンス全般で活きるスキルです。
3. 自走力
筆者が税理士法人時代に最も鍛えられたのがこの能力です。分からないことがあっても、過去の判例や通達を自分で調べて一次的な見解を持つ。この「自走力」は、コンサルという正解のない世界で非常に重要でした。
コンサルから事業会社へ:筆者の次の選択
筆者はコンサルティングファームで数年間M&Aアドバイザリーに携わった後、上場企業に転職しました。
コンサルでの仕事は刺激的でしたが、次第に感じるようになったのが「アドバイザーではなく、当事者としてM&Aに関わりたい」という思いでした。クライアントにアドバイスする立場ではなく、自分たちの会社として買収の意思決定をし、買収後の統合を自ら推進する——その方が自分には合っていると感じたのです。
今、上場企業でM&Aを含むコーポレートファイナンスに携わっていますが、税理士法人での税務の基礎→コンサルでのディール経験→事業会社での当事者としての実行、という流れは振り返ると非常に理にかなったキャリアパスだったと思います。
コンサルの税務部門に向いている人
- 税務DDの経験があり、ディール全体に関わりたい人:筆者と同じ動機なら最もフィットする
- 税務の専門性+αのスキルを身につけたい人:ファイナンスやビジネス理解を広げたい
- 年収を上げたい人:コンサルは報酬水準が高い
- 将来的に事業会社の要職を目指す人:コンサルの経験はCFOポジション等への近道になる
逆に、「税務の専門性を深く極めたい」「ワークライフバランスを重視したい」という方には、税理士法人に留まるか事業会社に直接移る方が向いています。
まとめ:税理士×コンサルはキャリアの掛け算
コンサルティングファームの税務部門は、税理士の専門性をビジネス全体のフィールドで活かせる場所です。税理士法人との違いは「税務のプロ」から「税務に強いビジネスプロフェッショナル」への転換であり、キャリアの幅を大きく広げてくれます。
税理士法人で税務DDを経験しながら「もっと広い世界を見たい」と感じているなら、コンサルへの転職は検討する価値があります。税理士の資格と経験は、コンサルの世界でも間違いなく武器になります。
