筆者は大手コンサルティングファームから上場企業に転職しました。年収は700万円から800万円へ。数字だけ見ると「たった100万円?」と思われるかもしれません。でも、この転職で手に入れたものは年収よりもはるかに大きかった。
一言で言うと、「毎回プロフェッショナルの顔をしなくてよい」という安堵感です。
コンサル時代は楽しかったし、成長もできた。でも、ある時から「自分はずっとアドバイザー側でいいのか」という問いが頭から離れなくなりました。この記事では、なぜコンサルを辞めて事業会社を選んだのか、そしてその判断がどうだったかを正直にお話しします。
コンサルで感じた「アドバイザーの限界」
「あとはお任せします」の繰り返し
コンサルの仕事は刺激的でした。M&Aの案件に次々と関わり、さまざまな業界のビジネスを見ることができる。税理士法人時代には見えなかったディールの全体像も把握できるようになり、確かにスキルは上がりました。
しかし、コンサルで何件もの案件をこなすうちに、ある種の虚しさを感じるようになりました。
どれだけ深く案件に関わっても、最終的には「助言」で終わる。ディールが成立した後、その企業がどう変わっていくかを見届けることはできない。「あとはお任せします」と手を離した瞬間、筆者とその企業の関係は終わりです。
筆者はアドバイザー側ではなく、当事者としてM&Aに関わりたいと思うようになりました。買収先の統合、シナジーの実現、組織の変革——そういったことを「自分ごと」としてやりたい。この思いが事業会社への転職を決意させました。
「毎回プロフェッショナルの顔をしなくてよい」という本音
もう一つ、正直に告白しなければならないことがあります。コンサル時代、毎回新しいクライアントの前で「プロフェッショナルの顔」をすることに疲れていました。
初対面のクライアントに対して、短期間で信頼を勝ち取り、専門家として振る舞い続ける。これがコンサルの仕事です。もちろんプロとして当然のことですが、年に何回もこれを繰り返すのは、精神的にかなりのエネルギーを消耗します。
事業会社に移れば、毎回ゼロから信頼関係を構築する必要はない。社内の人間として、腰を据えて仕事ができる。「毎回プロフェッショナルの顔をしなくてよい」——これは決してネガティブな動機ではなく、自分にとって持続可能な働き方を選ぶという合理的な判断でした。
上場企業への転職活動
なぜ上場企業を選んだか
事業会社と一口に言っても、規模や業種はさまざまです。筆者が上場企業を選んだ理由はシンプルで、M&Aを積極的にやっている会社で当事者として関わりたかったからです。
非上場の中小企業ではM&A案件自体が少なく、コンサルで培った経験を活かしきれない。上場企業であれば、買収案件や組織再編が継続的に発生し、コンサル時代の知見をフルに活用できると考えました。
年収交渉はほぼなかった
ここは多くの人が気になるポイントだと思いますが、上場企業への転職では年収交渉をほとんどしませんでした。
というのも、上場企業は給与テーブルがしっかりしており、税理士資格を持つ人材を採用する場合、そもそもそれなりの水準で提示してきます。「安く買い叩こう」という発想がないんです。コンサルティングファーム出身で税理士資格を持っている人材に対して、変に安い提示をしてもお互い時間の無駄だと分かっている。
結果として、700万円から800万円へのアップ。コンサル→事業会社で年収が下がるケースも聞きますが、筆者の場合はむしろ上がりました。上場企業は税理士を安くは取ろうとしてこない——これは覚えておいて損はない事実です。
事業会社に入って変わったこと
「当事者」としての責任と充実感
上場企業に入って最も変わったのは、すべてが「自分ごと」になったことです。コンサル時代は良くも悪くも「他人の会社の話」でしたが、事業会社では自社の数字が自分の仕事の結果そのもの。
M&A案件で買収した会社の統合プロセスに、今度は当事者として関わる。PMIで問題が起きれば、それは「クライアントの課題」ではなく「自分の会社の課題」。この当事者意識の違いは、想像以上に大きかったです。
正直に言うと、責任の重さはコンサル時代以上です。でも、その分だけ成果が出たときの充実感も比べものにならない。自分が関わった買収案件がうまくいき、シナジーが数字として見えてきたときは、コンサル時代には味わえなかった達成感がありました。
ワークライフバランスの改善
事業会社に移って、ワークライフバランスは明らかに改善しました。コンサル時代は複数のプロジェクトが重なると物理的に時間が足りなくなることがありましたが、事業会社では業務のコントロールが効きやすい。
もちろん、決算期やM&A案件の山場では忙しくなりますが、コンサルのように「クライアントの都合で突然忙しくなる」ことが減りました。自分で仕事の優先順位をつけられる裁量がある。これは精神的にかなり楽です。
一方で感じるデメリットもある
事業会社のデメリットも正直に書いておきます。
まず、刺激は確実に減ります。コンサル時代は毎月のように新しい案件、新しいクライアント、新しい業界に触れていましたが、事業会社では基本的に自社のビジネスと向き合い続ける。変化のスピードが全く違います。
また、社内政治や部門間の調整といった「事業会社ならではの面倒くささ」もあります。コンサルは外部の専門家として意見を言えましたが、事業会社では社内の力学を理解した上で立ち回る必要がある。このスキルはコンサル時代には必要なかったもので、最初は戸惑いました。
4社を経験して見えたキャリアの全体像
会社 | 年収 | 得られたもの | 感じた限界 |
|---|---|---|---|
政府系金融機関 | 350万 | 財務分析の基礎、社会人としての基盤 | 専門性が積み上がらない、看板頼り |
準大手税理士法人 | 500万 | 税務の専門性、自走力 | 税務DDだけでは全体が見えない |
大手コンサルファーム | 700万 | ビジネス全体を俯瞰する力 | 常にアドバイザー、当事者になれない |
上場企業 | 800万 | 当事者としての経験、持続可能な働き方 | 刺激は減る(これはトレードオフ) |
今振り返ると、この4社それぞれで必要なものを手に入れてきたと感じます。どこか一つでも欠けていたら、今の自分はいない。特に、税理士法人で培った自走力がなければ、コンサルでも事業会社でもやっていけなかったでしょう。
コンサルから事業会社を考えている方へ
コンサルから事業会社への転職は、一般的に「年収が下がる」「キャリアのダウングレード」と言われることがあります。でも、筆者の経験で言えば、それは必ずしも正しくありません。
上場企業であれば年収は維持できるか上がることも多いですし、何より「当事者として深くコミットできる」という体験は、コンサルでは得られないものです。
もし「アドバイザーとしての仕事に限界を感じている」「もっと長期的に一つの企業と向き合いたい」と思っているなら、事業会社への転職は十分に検討する価値があります。
大切なのは、「何を手放して、何を手に入れるのか」を自覚した上で選択することです。コンサルの刺激と引き換えに、当事者としての深さと持続可能な働き方を手に入れる。筆者はこのトレードオフに満足しています。
