税理士は独立しやすい資格です。独占業務があり、自宅でも開業でき、初期費用も少ない。しかし、「独立しやすい」と「独立して成功する」はまったく別の話です。
筆者の周りにも独立した税理士は何人もいますが、順調に軌道に乗る人と苦戦する人の差は明確です。その差を生んでいるのは独立後の営業力ではなく、独立前の準備——特に「どの事務所でどんな経験を積んだか」です。
独立の成否を分ける「独立前のキャリア」
転職先の選び方がそのまま独立後に影響する
独立を視野に入れている税理士にとって、「今どこで働くか」は単なる転職の問題ではありません。将来の独立準備そのものです。
事務所の規模 | 独立準備に活きるポイント | 不足しがちなポイント |
|---|---|---|
Big4・大手法人 | 高度な専門知識、大型案件の経験 | 顧客対応の全体像、営業力 |
準大手・中堅法人 | 専門性+顧客対応のバランスが良い | 経営者との直接折衝がやや限定的 |
小規模・個人事務所 | 担当者として顧客をまるごと回す経験 | 高度な税務案件の経験が少ない場合も |
独立に最も直結するのは「担当者として顧客を最初から最後まで回した経験」です。Big4で大型案件のパーツだけを担当していても、独立後に中小企業の経営者から「全部任せたい」と言われたときに対応できません。
独立準備の5年ロードマップ
Phase 1:独立の3〜5年前(土台づくり)
- 専門分野を1つ決める → 法人税、相続税、国際税務など。「何でもやります」では独立後に埋もれる
- 顧客対応の経験を積む → 経営者と直接やりとりする機会が多い事務所を選ぶ
- 税理士登録を済ませる → 登録には2年以上の実務経験が必要。早めに要件を満たしておく
Phase 2:独立の1〜3年前(仕込み期)
- 紹介ネットワークを構築する → 弁護士、司法書士、社労士、銀行の担当者など。独立後の顧客紹介元になる
- Web集客の準備を始める → ブログ、SNS、自分の専門分野に関する情報発信。独立前から認知を広げておく
- 開業資金を貯める → 最低でも生活費6ヶ月分+事業運転資金100〜200万円
Phase 3:独立直前(半年〜1年前)
- 事務所の形態を決める → 自宅開業かレンタルオフィスか。最初は固定費を抑えるのが鉄則
- 会計ソフト・ツールの選定 → クラウド会計に対応できることは必須
- 最初の顧客候補にアプローチ → 前職の関係者、知人の紹介、セミナー開催など
- 退職の準備 → 繁忙期を避け、円満退職を心がける。業界は狭い
独立後の収入の現実
年数 | 年収目安 | 顧客数の目安 |
|---|---|---|
独立1年目 | 200〜500万円 | 5〜15件 |
独立2〜3年目 | 500〜800万円 | 20〜40件 |
独立5年目 | 700〜1,200万円 | 40〜70件 |
独立10年目 | 1,000〜2,000万円以上 | 50〜100件以上(スタッフ雇用含む) |
初年度は苦しいケースが多い。ただし、独立前の準備が十分であれば、2〜3年目で勤務時代の年収を超えることは珍しくありません。
独立で失敗する人のパターン
パターン1:準備不足の見切り発車
「もう事務所が嫌だ」という感情で独立を決断するのは危険です。顧客の見込みがゼロの状態で独立すると、最初の半年〜1年を営業だけに費やすことになります。その間の収入はほぼゼロ。資金が尽きて廃業するケースも。
パターン2:価格競争に巻き込まれる
「安さ」で勝負しようとすると、利益が薄い顧客ばかりが集まり、忙しいのに儲からない状態に陥ります。独立するなら専門性で差別化し、適正な報酬を請求できるポジションを目指すべきです。
パターン3:「勤務時代の延長」で独立する
記帳代行と申告書作成だけを請け負う——これは勤務時代の仕事をそのまま個人でやっているだけです。独立のメリットは「自分で付加価値を設定できること」。経営相談、事業承継、税務コンサルティングなど、単純作業の先にあるサービスを提供できるかどうかが独立成功の分かれ目です。
独立前に身につけるべきスキル
税務スキル以外が重要
独立後は税務の仕事だけしていればいいわけではありません。以下のスキルも不可欠です。
- 営業・マーケティング → 顧客獲得は自分でやるしかない。Web集客、紹介営業、セミナー開催
- コミュニケーション力 → 経営者との信頼関係構築は最も重要なスキル
- ITリテラシー → クラウド会計、電子申告、Web会議ツールは必須
- 経営感覚 → 自分の事務所の売上・経費・利益を管理する能力
まとめ:独立の成功は「独立前」に決まる
税理士の独立は夢があります。年収の上限がなく、時間も自由になり、自分の名前で仕事ができる。しかし、準備なしの独立は高確率で苦戦します。
まずは「独立するために、今どんな経験を積むべきか」を逆算してください。転職先を選ぶときも、「この事務所での経験は独立後に活きるか?」という視点を持つこと。3〜5年の準備期間を戦略的に使えた人が、独立後に最も早く成功しています。
独立準備に適した事務所を探すなら、業界特化のエージェントに「将来の独立を視野に入れた転職」と正直に伝えてください。目先の年収だけでなく、独立後のキャリアまで見据えた提案をしてくれるはずです。
