税理士としてキャリアを積む上で、「どの分野を専門にするか」は極めて重要な決断です。法人税、相続税、国際税務——それぞれ求められるスキル、年収レンジ、働き方が大きく異なります。
筆者は法人税法を受験科目として選び、その延長でM&Aや組織再編の分野に展開しました。この選択が、後のキャリアを方向づけたのは間違いありません。どの分野を選ぶかで、税理士としての人生が変わります。
3大専門分野の比較
項目 | 法人税 | 相続税 | 国際税務 |
|---|---|---|---|
市場ニーズ | ★★★★★(最も需要が大きい) | ★★★★☆(高齢化で需要増加中) | ★★★☆☆(企業規模による) |
年収レンジ | 500〜1,200万円 | 500〜1,500万円 | 600〜1,500万円 |
独立との相性 | ★★★★☆ | ★★★★★(案件単価が高い) | ★★☆☆☆(組織での実務が中心) |
参入障壁 | 低(多くの税理士が対応可能) | 中(実務経験が重要) | 高(語学力+専門知識が必要) |
将来性 | 安定(AI時代でも複雑な判断は残る) | 拡大(相続件数は増加傾向) | 拡大(グローバル化の進展) |
法人税の専門家というキャリア
最も汎用性が高い選択
法人税は税理士の業務の中核です。中小企業の顧問税理士から大手法人のM&Aアドバイザリーまで、法人税の知識はあらゆる場面で必要とされます。筆者も法人税法を受験し、その知識をベースにキャリアを構築しました。
法人税から広がるキャリア
- M&A税務 → 企業の合併・買収に伴う税務デューデリジェンス、ストラクチャリング
- 組織再編税制 → 企業グループの再編に伴う税務アドバイザリー
- 事業承継 → 中小企業オーナーの株式承継に関する税務設計
- 連結納税 → 大企業グループの連結納税コンサルティング
筆者の場合、法人税法の知識をベースに、準大手税理士法人でM&A関連の業務に携わり、その経験がコンサルティングファームへの転職につながりました。法人税は「入口」として最も守備範囲が広い分野です。
法人税分野の年収モデル
経験年数 | ポジション | 年収目安 |
|---|---|---|
1〜3年 | スタッフ | 400〜500万円 |
4〜7年 | シニアスタッフ | 500〜700万円 |
8〜12年 | マネージャー | 700〜1,000万円 |
13年〜 | パートナー・ディレクター | 1,000〜2,000万円以上 |
相続税の専門家というキャリア
需要が伸び続ける成長分野
日本の高齢化に伴い、相続案件は右肩上がりで増加しています。2015年の相続税改正で基礎控除が縮小されて以降、相続税の申告が必要な人は大幅に増加しました。
相続税の特徴は、案件単価が高いこと。1件あたり数十万〜数百万円の報酬が見込めるため、独立後の収入に直結します。
相続税分野の強み
- 案件単価が高く、少数の顧客でも十分な収入を確保できる
- 土地評価、財産評価のスキルは替えが効かない
- 富裕層・資産家からの継続的な顧問契約につながりやすい
- 独立との相性が非常に良い
相続税で求められるスキル
相続税の専門家には、税法の知識だけでなく「対人スキル」が強く求められます。被相続人のご家族は感情的になりやすく、遺産分割に関するデリケートな問題に寄り添う力が必要です。年齢を重ねた税理士ほど信頼されやすい分野でもあります。
国際税務の専門家というキャリア
参入障壁が高い=年収も高い
国際税務は、移転価格税制、タックスヘイブン対策税制、租税条約の適用など、高度な専門知識を必要とする分野です。対応できる税理士が限られているため、年収水準は高い傾向にあります。
国際税務のキャリアパス
- Big4税理士法人の国際税務部門 → 最もメインのキャリアパス。グローバル企業の税務を担当
- 大手コンサルの国際税務チーム → M&Aに絡む国際税務アドバイザリー
- 多国籍企業のインハウス税務 → 事業会社の税務部門で国際税務を担当
国際税務に必要な条件
条件 | 必要度 | 備考 |
|---|---|---|
英語力(TOEIC 800点以上) | ★★★★★ | 海外拠点とのやりとりは英語が前提 |
法人税の基礎知識 | ★★★★★ | 国際税務は法人税の延長線上にある |
移転価格税制の知識 | ★★★★☆ | ニーズが最も大きい分野 |
海外勤務経験 | ★★★☆☆ | あれば有利だが必須ではない |
専門分野の選び方:3つの判断基準
基準1:自分の受験科目との整合性
受験科目が専門分野の方向性を決めることは多い。法人税法を選んだなら法人税・M&A関連、相続税法なら資産税分野への展開が自然です。筆者が法人税法を選んだのも、将来のキャリアを意識した結果です。
基準2:市場の需給バランス
「やりたい分野」と「求められている分野」の両方を考慮してください。たとえば消費税の専門家は需要はあるものの、法人税や相続税ほどの年収プレミアムは期待しにくい。市場で評価される分野を選ぶことも重要です。
基準3:独立との相性
将来の独立を考えるなら、相続税は最有力の選択肢です。案件単価が高く、個人でも十分に対応できるスケール感だからです。一方、国際税務は組織の中で力を発揮する分野であり、独立との相性はあまり良くありません。
「まだ選べない」という人へ
専門分野が定まっていない20代後半〜30代前半の人も多いでしょう。焦る必要はありません。まずは法人税の基盤をしっかり作り、そこから興味のある分野に展開するのが最もリスクの少ない方法です。
ただし、「何でもできます」のまま35歳を超えると市場価値が下がるリスクがあるのも事実。30歳前後で方向性を決め、30代前半で専門性を深めるのが理想的なタイムラインです。
迷っている場合は、業界特化のエージェントに相談してみてください。「自分の経験と志向に合った専門分野はどれか」を客観的にアドバイスしてもらえます。
